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ヨシュカ・フィッシャー ドイツ連邦共和国元副首相兼外務大臣講演会
"Europe and Unified Germany"


講演者 ヨシュカ・フィッシャー氏 (ドイツ連邦共和国 元副首相兼外務大臣)
司会 縣 公一郎教授 (早稲田大学政治経済学術院)
日付 2010年10月8日(金)
時間 15時30分から16時15分
場所 早稲田大学14号館201教室
言語 日本語及びドイツ語 (同時通訳)
備考 参加者:約450名


さる10月8日、本学EUIJ早稲田はヨシュカ・フィッシャー独元副首相兼外相をお招きし、ヨーロッパと統一ドイツという観点で、私たちが共にグローバルな課題にいかに立ち向かえるかをテーマにご講演頂いた。概要は以下のとおりである。

1.開会の挨拶等
冒頭、司会の縣公一郎教授が開会の辞を述べ、続いて内田勝一本学常任理事・国際学術院教授がフィッシャー氏(国際危機グループ、ヨーロッパ外交評議会理事)を紹介した。「日独交流150周年」の記念すべき年に、東西統一以来のドイツの欧州における役割について、フィッシャー氏という素晴らしい政治家の講演の機会を得ることは、本学にとって大変名誉である旨の謝辞を示した。

2.フィッシャー氏講演
まずフィッシャー氏は20年前のドイツ統一とその後のヨーロッパの成長を振り返り、「1990年10月3日は統一ドイツの日のみならず、ヨーロッパ統合・拡大の始まりの日でもあった」と述べた。

欧州統一とドイツ統一
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ドイツ及びヨーロッパを理解するには、特に20世紀の歴史を理解する必要がある。20世紀を二つに大別すると、前半は主に内戦、独裁主義、二つの大戦の時代であったのに対し、後半は欧州大陸で平和が続いた時代であった。背景には、西側の安全保障の枠組みとしてのNATOの発足、ヨーロッパが新たな国家秩序を求めていたことがある。それ以前、国家秩序の根本には力の均衡(balance of power)があった。しかし、いったんその力の均衡が崩れると、戦争は回避できなかった。1945年、新しいヨーロッパの秩序を作り上げるのであれば、戦争を始めた国ドイツを一員にするしかないという認識があった。1945年を境に力の均衡という従来の考え方ではなく、共通の利害を追求するため新しい組織を作り上げ、平和的に協力するというアイディアが生まれた。これが、主権国家が主権の一部を共通機関に委託するという革命的アイディア、現在のEUであった。ドイツ統一は隣国の承諾を得て可能となり、その後のドイツはEUで積極的に活動している。
新しい国家秩序とEUの東方拡大
EUの最大の成果は、大陸に平和をもたらしたことである。一方、90年代初頭、バルカン半島で対立が勃発し、ドイツも第二次世界大戦後初めて軍隊を国外に派遣した。当時外相だったフィッシャー氏は、ドイツも平和構築プロセスに参加して、バルカン半島がヨーロッパに統合されないと平和は不可能と感じた。大陸で安全が危うい地域が存在することは、大陸全体にとっての危険要素となる。フィッシャー氏は、これからも断固として欧州統合は続けないとならないと考えている。トルコの加盟を支持し、「むしろトルコ加盟はこちらが頼む立場になるのではないか」という。トルコは近代化を成し遂げていて、地理的にも、安全、エネルギー面でも欧州にとって重要な地域だと考えている。

ヨーロッパの課題
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日本との共通テーマである人口動態や少子高齢化に加えて、ヨーロッパでは移民の受け入れも議論となっている。「現在、ヨーロッパ内での議論は、イスラムとヨーロッパ」。フィッシャー氏は「これは避けて通れない議論であると同時に、ヨーロッパは移民を必要としており、双方からの統合」が必要だと述べた。「日独学術交流があるように、双方の学術分野での交流がもたらす影響は大きい」とつけ加えた。

また、経済危機での打撃を受け、ヨーロッパの福祉国家が死にかけているという意見は間違いだと指摘した。教育分野、社会福祉、保険分野、失業保険、年金制度などのシステムには国の資金投入する制度が必要である。ただ、寿命の伸びなど時代の変化に応じ福祉国家も調整していく必要があると述べた。また、発展途上国の台頭に対しては「ヨーロッパの中心理念は連帯感であり、今後、中国・インド・ブラジルなどの競争相手が台頭し、東アジアへと枢軸がシフトしていく中で、我々も連帯して、統合、深化」を遂げていくと語った。

危機は大きなチャンス
金融危機は全世界を揺るがしたが、「危機的な時期は、自分から物事を形成できるチャンスと捉えるべきである」という。フィッシャー氏は、日本などではユーロに懐疑的かもしれないが、ギリシャ問題はそこまで心配してないと語る。再び同じような危機を回避するため、今後、政策、マクロ経済、金融経済、予算、税制面で各国間の緊密な調整が必要という。

楽観主義と現実主義 
フィッシャー氏は、今は楽観主義的立場だが、政治人生では現実主義者として知られてきた。最終目標を見つめ、達成するには現実主義が大事だ。欧州の進歩はまだ最終段階ではなく、西バルカン諸国が欧州の将来を大きく変化させると、フィッシャー氏は述べる。「未来への挑戦として、平和の実現を目指し続けなければならない。ヨーロッパ市民の情熱を抱いてもらうのも挑戦である。20年前を振り返ると、ドイツ統一は大きな成功であった。EUの東方拡大へはまだ道のりは長いが、今まで成し遂げた道のりも長く大きい。10年後また、早稲田大学で講演をする機会に恵まれたなら、東アジアからヨーロッパを見て、それが非常にポジティブなイメージになっていると嬉しいと述べ講演を終えた。

3.質疑応答
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すべてに答える時間がないほどの質問が出た。「日本が今後東アジア共同体を目指すなか、中国など国家体制が違う国といかに共同し、いかなる役割を果たせるのか?」との質問には、「東アジアとヨーロッパでは情勢も地理的規模も違う。東アジアは21世紀前半で最も重要な地域。ここで失敗すれば全世界が危うくなる。多国間主義の重要性をアジアはヨーロッパから学べるのではないか。」と述べた。
また、「NATOの中で友好的な対米関係を築きながら欧州統合を進めてきたドイツの立場から、日本、東アジア共同体構想へのアドバイスを」との質問には、「対米関係は東アジア、ヨーロッパのいずれにとっても不可欠。アメリカから学んだことは、権力をもつ者に対しても、"1+1は3ではなく2である"ときちんと反対の声を表すべきこと。もちろんアメリカは支持しているが、間違いははっきり指摘することが大事」と語った。日・EU関係についての質問も多く出された。

4.福田耕治教授EUIJ早稲田代表よりご挨拶
司会の縣教授から謝辞が述べられた後、福田教授(EUIJ早稲田代表・早稲田大学EU研究所所長)より、フィッシャー氏、ドイツ大使館及び欧州連合代表部の関係者の皆様に謝辞が述べられた。その後、教授は、フィッシャー氏の2000年5月に行われたフンボルト大学での講演に触れ、そこで、「EUの制度設計について、主権の共有(sharing of sovereignty)の概念を批判しながら、EUと加盟国の権限関係を明確化すべきだというご提案をスピーチされた」と述べた。そして、「その三日後に、ヨーロピアンユニバーシティインスティトュートから、欧州委員会の委託を受けて作られた報告書にそのアイディアがふんだんに盛られ、そして昨年12月1日に発効したリスボン条約の中に明確な形で法的文言として実現した」と、リスボン条約とフィッシャー氏の関係にもふれた。最後に、フィッシャー氏の「非常にポジティブな姿勢には強く勇気づけられるものがある」と同時に改めて謝辞を述べ、本講演会は締めくくられた。

文責:早稲田大学大学院
政治学研究科
中村真愉子