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EUのガバナンスと政策過程、その現状と課題―政治学の観点から

講師 福田耕治 教授 (EUIJ早稲田代表、早稲田大学政治経済学術院)
司会 杉本芳輝 主任教授 (人事院公務員研修所)
日付 2009年10月30日(金)
時間 18時から21時
場所 人事院 大会議室
言語 日本語
備考  

1. 開会の挨拶等

kasumi2_Fukuda.jpg司会の杉本芳輝氏による福田耕治教授の経歴紹介の後、表題テーマの講義が始まった。福田教授は、講義の導入部分で、PRリーフレットを基にEUIJ早稲田を紹介した。

2. 講義概要

① EU史の概観
 地域統合の発展はグローバルなトレンドである。このトレンドは1990年代にはじまった。だが、欧州統合の歴史は少なくとも1950年代にさかのぼることができ、その後の世界情勢を見越したプロジェクトだった。欧州統合の最初の構想は、クーデンホーフ・カレルギーの『パン・ヨーロッパ』にみられ、その後のナショナリズムの時代を越えて1950年代に入るまでに、緩やかな政府間協力機構としての欧州評議会(Council of Europe、1949年)が創られた。現在のEUの原型は、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC、1952年)である。ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダの6カ国が形成するECSCは、独仏国境付近にある石炭と鉄鋼の地下資源を国際共同管理下におき戦争原因を消失させるというフランスのジャン・モネの平和構想にヒントを得た「シューマン宣言」に基づく共同体だった。これまでEU(European Union)は、超国家性をもつ「欧州共同体(European Communities)」、政府間協力としての「共通外交安保政策(CFSP)」及び「刑事警察司法協力(PJCC)」の総称だったが、リスボン条約以降は法人格をもち、欧州を代表して国際レベルの法的行為を行うことができるようになる。

② 欧州ガバナンス
 EUの主要機関は、①欧州委員会(European Commission、行政府)、②閣僚理事会(Council of European Union or Council of Ministers、立法府)、③欧州議会(European Parliament、立法府)、④欧州司法裁判所(European Court of Justice、司法府)、⑤欧州会計検査院(European Court of Auditors、会計監査)の5つである。立法府のうち、②は加盟国の閣僚から構成される政府間協力の枠組みであるのに対し、③はEU市民が直接選挙を通じて選ぶ超国家性を持っている。つまり、EUは主権国家とEU市民によって二重に民主的にコントロールされうる政体として設計されている。また、欧州の諸政策の権限は、補完性原則と均衡原則に基づき、EUないしは加盟国の中央政府レベルだけでなく、地方政府レベルを含む最も適したレベルに配分されている。このような、欧州におけるEUとその加盟国を通じた独特の重層的なガバナンスを「欧州ガバナンス」と呼ぶ。

③ 民主主義の不足とリスボン条約
 リスボン条約による欧州議会の性格の変化は、「EUの民主主義不足」批判へのひとつの対応である。これまで、EU市民の民意を代表する欧州議会は、EUの政策決定過程で部分的にしか関与できなかった。リスボン条約後は、欧州理事会との共同決定手続きの適用範囲が拡大され、欧州議会の権限は拡大・強化される。また、加盟国内議会の権限も強化され、EUの政策決定は同議会からも包括的に監視されるようになる。その他の「EUの民主主義不足」批判への対応として、EUの立法過程で主要な役割を果たす閣僚理事会の透明化、これまで法案の発議を通じて政策決定過程に重大な影響を与えてきた欧州委員会に対する欧州議会の監督強化等が、リスボン条約によって推進される。

3.質疑応答等
 コーヒーブレイクの後、質疑応答が始まった。そこでの質問は、東アジア共同体構想との関連質問が多数を占めた。まず、EUは東アジア共同体のモデルになりうるか、という質問があった。この質問に対し福田教授は、欧州の経験は多くの示唆を与えうると回答した。例えば、地下資源の国際共同管理、自然災害や感染症に関するオペレーションなど、個別の政策領域における国家間協力から、グローバルあるいはリージョナルなガバナンスが形成されうると述べた。アジアの多様性が統合の妨げになるのではないか、という質問もあった。この問いに対しては、ヨーロッパもアジアに相当する程度の多様性があると回答し、欧州はその多様性をアイデンティティとしているといった。確かに27加盟国中カトリック教徒が多数を占める国は多いが、ドイツ国籍をもつトルコ人やモスレムの英国人など、欧州諸国の国内の多様化が進んでいることにも言及した。
 欧州のあらゆるレベルのアクターが関与する新しいガバナンスの手法であるOMC(Open Method of Coordination)のイニシアティブは誰が取るか、という質問があった。福田教授は、補助金という重要なインセンティブを出す欧州委員会であると答え、この手法には行政による管理という側面があり、民主的な正統性の問題があるとも述べた。その他、欧州統合の過程は長い調整の過程であろうが、そのエネルギーの源泉は何か、という質問もあった。この問いに対しては、欧州委員会が高度な専門家集団であることに言及し、彼らの欧州統合へのこだわり、プライドがそのエネルギーになっているのではないか、と答えた。そこで質疑応答は閉じられ、最後に杉本氏が福田教授と参加者に謝辞を述べて、本イベントは終了した。