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国際シンポジウム「死刑制度:世界から見た日本」

講師 保坂展人氏 (前衆議院議員、元死刑廃止議連事務局長)
ロジャー・フッド名誉教授 (オックスフォード大学 (基調講演))
ソール・レフロインド氏 (弁護士、英国NGO「ザ・デス・ペナルティー・プロジェクト」)
パーベイス・ジャバー氏 (弁護士、英国NGO「ザ・デス・ペナルティー・プロジェクト」)
バート・ステパー氏 (アムネスティー・インターナショナル・オランダ元代表)
布施勇如氏 (研究者)
司会 ドミニク・アルバドリ氏 (駐日欧州連合代表部 政治分析官)
日付 2010年11月25日(木)
時間 13時00分から14時30分
場所 早稲田大学 11号館4階、大会議室
言語 日本語及び英語 (同時通訳)
備考 170名

保坂氏による開会の挨拶等 アルバドリ氏が本セミナーの趣旨について説明した後、保坂氏が次の通り開会の挨拶を述べた。 

1. 開会挨拶 保坂氏
死刑廃止論者である千葉景子大臣(当時)が、2名の死刑執行を命じ、7月に執行に立ち会った。その後、死刑の情報公開が一歩進み、8月に東京拘置所の絞首刑の刑場が公開された。しかし情報公開は不十分である。他方、裁判員制度が昨年5月に始まり、今月初めて死刑判決が出た。明日、18歳の少年に死刑判決が出る可能性もある。

死刑廃止議連は、終身刑(仮釈放なし)を創設し、死刑判決は裁判員全員一致を要件にする法案をつくった(2008年5月)。死刑廃止そのものでも、死刑停止でもなく、死刑の「慎重化」をまず目指した。これは裁判員制度が始まる直前に制度変更すべきでないという声が壁になり制定されなかった。裁判員制度導入から3年後の見直しに合わせてこの法案を再提出する。

死刑判決は裁判員の多数決で決まる。市民の要求と判断を大義名分に、死刑廃止に向けた議論、執行の歯止めがきかなくなるのではないか、また裁判員になった国民の思想・良心の自由、人間の尊厳を蹂躙するのではないか、と懸念する。死刑をめぐる問題は、裁判員として国民誰もが直面しうる問題である。このような議論を持てる機会に感謝し、開会の言葉に代えたい。 

 2.フッド教授基調講演:死刑の廃止に向けて――世界の中の日本(Abolition of the Death Penalty: Japan in World Perspective) 

フッド教授は、どのような理由で、死刑の普遍的廃止という考えを多くの国々がもつようになったか、という問いについて論じた。

 【歴史、死刑廃止の進展】 
人権を尊重するすべての国は、国際自由権規約(ICCPR)6条、7条の文言を理解し、死刑廃止を目標にすべきである。死刑廃止への動きは、18世紀欧州の啓蒙思想に始まった。世界人権宣言(1948年)当時は、8か国のみが死刑を廃止していた。そのほとんどが南米諸国だった。人権宣言第3条が死刑について言及しなかったのも不思議ではない。

1957年に起草され1966年に採択された自由権規約の6条の2は、死刑を「最も重大な犯罪についてのみ科することができる」という。これは当時死刑を存置している国のためにつくられた。だが、6条の6は「この条のいかなる規定も、この規約の締約国により死刑の廃止を遅らせ又は妨げるために援用されてはならない」といい、また7条が「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない」というとおり、この条約を批准した国家は、究極的な条約の目的、すなわち死刑廃止に向かって進んでいかなければならない。 

戦後当初の死刑廃止の歩みは遅かった。1988年に国連加盟180か国中52か国(29パーセント)、現在は196か国中103か国が死刑を廃止するようになった。うち95か国は、あらゆる犯罪・状況について廃止している。加えてアムネスティ・インターナショナルによれば、36か国は実行面で廃止している。すなわち、70パーセント(196か国中139か国)は死刑を執行していない。世界は死刑廃止に向かっている。 

【新しい力学とそれを生み出した要素】 
どんなイデオロギーと政治的な過程がこの力学を生み出したか。それは欧州の民主化、およびアジア・アフリカ諸国の植民地主義からの自由である。国際人権条約の与えた影響は大きかった。死刑廃止を明確に定めた議定書等も結ばれた(ICCPR第二選択議定書、欧州人権条約の選択議定書6号、13号、アメリカ人権条約の選択議定書)。加えて、各国が定めた民主的な憲法が、生命への権利を規定し死刑を禁止してきた。

 死刑廃止は、政治的なリーダーシップを要する。世論を無視してはならないが、世論をうのみにしてはならない。政府が一般市民に情報を与え、人権を尊重し死刑を廃絶するよう導く必要がある。欧州評議会(1994)と、より強力にEU(1998)が、その加盟国に死刑廃止を求めたことが、死刑廃止に向けた国際的な政治的気運を高めた。EUの死刑廃止への取り組みは、外交的に第三国にも影響を与えている。 

人権は、政治体制、人民、文化の違いにかかわらず受け入れられ、死刑廃止は進展している。すべてのイスラム教国は死刑を存置している。だが、チュニジア、アルジェリア、モロッコは10年以上執行しておらず、ヨルダン、モロッコ、レバノンは廃止を検討し、エジプトでは執行数が急減している。アジアのイスラム教主流国は執行数が少ない。死刑を大規模に行う、定期的かつ大規模に死刑を執行しているのは4か国(イラン、サウジアラビア、イラク、イエメン)のみである。これら諸国の変化は、法制度が今後もイスラム教の原理的解釈に基盤を置き続けるか、否かにかかっている。

 アジアでは、ネパール、ブータン、カンボジア、フィリピンの4か国が死刑を廃止し、韓国を含む6か国が事実上廃止している。インドで死刑は原則として例外中の例外として執行され、2004年以降執行されていない。中国でも死刑の適用範囲は見直されつつあり、死刑を数少ない凶悪犯罪にのみ執行すると、活発な議論が起こっている。アジアでは後退要因もある。モラトリアムを続けていた台湾は、最近4人に死刑を執行した。日本でも、死刑廃止論者である千葉景子大臣が2人の刑を執行した。 

死刑廃止は、人権という道徳的な力により世界中で推し進められている。死刑の廃止は、人権尊重のリトマス試験紙になりつつある。今後、日本のような死刑存置国はより孤立し、死刑の廃止に向けた抗しがたい圧力にさらされるだろう。あなた方のような若い世代は、文明化が進展する中で、死刑を過去の野蛮な遺物として手放すはずである。

 3.質疑応答 

(C)British Embassy Tokyo
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アルバドリ氏の司会のもと、質疑応答が進められた。まず、死刑廃止により社会が不安定化し人権が侵害される社会にならないか、という問い、そして死刑が非人道的か、それとも死刑の方法が非人間的かという問いが出された。
講演者、パネリストからは、まず一つ目の問いについて、死刑と犯罪率の関係はないという研究の結果が示された。また一方で、死刑について考えるほど犯罪者は理性的でないと
いう意見、他方日本では、死刑になりたいという理由の犯罪があり、死刑には抑止効果どころか「促進効果」があると述べられた。そして二つ目の問いについて、死刑囚であること自体、すなわち死刑が非人道的であるという考え方、また日本の死刑の方法が非人道的であるという考え方などが示された。 

中でも布施氏は、日本と米国の死刑を比較し、絞首刑という手段の残虐性について論じた。この手段の残虐性について、戦後政府が真剣に検討したことはなく、裁判員がこの残虐さを知らないまま死刑判決を出すということがあってはならないと述べた。死刑執行の場面が公開される米国では、死刑自体が残虐であるかどうかとは別に、「見るに堪える死刑」であることが基準になっている。日本では、死刑に関する情報が徹底的に隠され、情報公開請求をしても、名前と日時と場所しか明らかにならない、と述べた。 

その他、日本の世論の死刑支持、被害者遺族の感情にどう対処するかという問いも出された。講演者、パネリストは、この議論はどの国でもかならず出てくる議論と認めたものの、報復感情が公共政策の指針になるべきでなく、文明化された社会はその感情を乗り越え先に進み始めていると述べた。自由権規約を批准している日本政府は、死刑廃止に向けた責任を負っていると、政治的なリーダーシップが期待された。ここでアルバドリ氏により質疑応答が閉じられ、イベントは終了した。

文責: EUIJ早稲田 加藤恵美