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国際シンポジウム
日本の人権と国連条約:Promoting Human Rights in Japan through U.N. Treaties


講演者と
パネリスト
マイケル・オフラハティ教授 (国連自由権規約委員会委員)
オーベ・ブリング名誉教授 (スウェーデン国立防衛大学、ストックホルム大学)
メルセデス・モラレス (国連人権高等弁務官事務所)
大谷美紀子弁護士 (日本弁護士連合会 国際人権問題委員会副委員長)
武村二三夫弁護士 (日本弁護士連合会 自由権規約個人通報制度等実現委員会副委員長)
江島 晶子教授 (明治大学法科大学院)
ポール・グリーン (元国際法律家委員会メンバー、英国政府高官)
ペトル・コヌプカ (チェコ共和国 政府高官)
ゲルハルト・タリンガー (オーストリア共和国 政府高官)
オルショヤ・マカール (ハンガリー共和国 政府高官)
ルーランド・ベッカー (オランダ王国 政府高官)

 司会 第一部:萬歳 寛之准教授 (早稲田大学法学学術院)
第二部:岩澤 雄司教授 (東京大学、国連自由権規約委員会委員長)
日付 2010年11月4日(木)
時間 13時00分から16時30分
場所 早稲田大学 大隈記念講堂
言語 日本語及び英語 (同時通訳)
備考 主催:駐日欧州連合代表部 ・ EUIJ早稲田
共催:早稲田大学法学学術院
後援:国際連合広報センター


第一部:「国連は個人の人権をどう守れるか」"How U.N. treaties can foster an individual's human rights"

1. 開会の挨拶等

白井克彦早稲田大学総長とステファン・フーバー駐日欧州連合代表部臨時代理大使が開会の辞を述べた。白井総長、フーバー臨時代理大使ともに、講演者らに謝辞を述べ、このシンポジウムが日本の個人通報制度の議論の発展に貢献するものになるだろうと期待を示した。その後、山花郁夫外務大臣政務官によるスピーチが続いた。山花政務官は、日本政府は個人通報制度の受け入れの是非について真剣な検討を始めており、本シンポジウムの議論を吸収したいと述べた。その後、オフラハティ教授による基調講演、およびモラレス氏、大谷氏によるレスポンスに移った。

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白井克彦早大総長 フーバーEU臨時代理大使      山花郁夫外務大臣政務官
 

2.基調講演:マイケル・オフラハティ(国連自由権規約委員会委員)

"The strengths and weaknesses of the UN Human Rights Treaties system"
 「国連人権条約システムの可能性と限界」

 この講演でオフラハティ氏は、国連の人権条約、制度・手続きの発展が人権の保護にどのような影響を与えているか、という問いに答え、また日本の現状と関連付けながら、システムの改革について意見を述べた。

第二次世界大戦後に発展した国連人権条約の実施メカニズムは似通っている。すなわち条約は、国際的なモニタリング機関(委員会)を設置し、委員会が国家からの定期的な報告と、個人からの通報を審査する。

まず委員会は、国家の定期報告をレビューする。委員会は定期報告をもとに、条約の実施状況を分析し、所見(observations)を出す。所見には、問題点及び改善勧告が含まれる。ただし、この所見には法的な拘束力がない。

個人通報制度は、国家が選択的に取り入れる。委員会は、準司法的な立場で通報を検討する。審査の結果、違法性が認められれば、意見(views)を出す。被害者に対して当該国家が提供すべき救済策、賠償が提案されることもある。委員会の意見の拘束力、法的地位については、議論の余地がある。

条約の批准は、モニタリング手続きの必要条件であり、国家の人権に対する倫理的な立場を表す。世界195か国のうち、その大多数は人権規約を批准し、他の主要4条約も批准している。児童の権利条約の批准国(193か国)が一番多く、次が女性差別撤廃条約(186か国)である。一般的に批准が少ない条約は新しい条約であり、今後増える可能性がある。人権条約の普遍的な批准は、中期的には野心的すぎる目標ではない。

だが条約批准数に比べ、個人通報制度を取り入れた国は少ない。人種差別撤廃条約の手続きは、173か国中53か国しか受け入れていない。自由権規約も166か国中113か国しか受け入れていない。日本は、先に山花政務官が言及したようにその検討を始めてはいるものの、個人通報制度をひとつも取り入れていない。
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101104EU_O'Flaherty.jpg委員会の仕事、すなわち2つのモニタリング制度は、人権保障にどんな効果を与えているか。まず定期報告のモニタリングについてである。

第一に、報告書の作成を通じてより多くの省庁が人権問題にかかわるようになり、国家が人権問題により敏感になる。第二に、NGOが報告の過程に関与するため、人権に関する議論が社会全体で促進され、市民社会が強化される。国家の報告が公開されることは有用である。また、委員会の所見にも価値がある。委員会の所見は、国内の人権状況に関する信頼できる見解として、議論を有効に促進する。

委員会の見解は、その第一義的な責任、すなわち締約国に対し人権状況の改善を促す責任から、マイナス面に焦点をあてる。2008年10月に日本政府に出された自由権規約委員会の総括所見によると、日本にはまず国内に人権審査機関がないこと、そして人権に関する決定が強く世論の影響を受け、曖昧な「国民の福祉」という観点が優先されること、また男女平等、性的・家庭内暴力の被害者の問題、拘置施設における条件、なかでも死刑囚の問題、加えて少数民族の状況にも問題が認められている。

第三に、委員会勧告が政府に及ぼすインパクト、これが重要である。しかし、それを知る情報源は限られている。勧告のフォローアップ手続きはあるが、そのための人員が不足している。それでも、締結国は勧告を部分的に実行していることが学術的に明らかになっている。ユニセフの調査によると、児童の権利には委員会の所見による大きな改善がみられる。

次に、個人通報制度についてである。締約国は、救済策を十分に実施していない。自由権規約委員会の調査(2010年4月)によれば、274件の人権侵害のうち、委員会の見解(finding)の実施率は12.27パーセントに過ぎない。特に、委員会が提案した法改正が実施されていない。

では、モニタリング制度はどのように強化、改革されるべきか。5つのチャレンジがある。

①インプット・チャレンジ(input challenges):委員会の管轄権が拡大され、必要な情報へのアクセスが認められること。②分析上のチャレンジ(analysis challenges):選挙手順の改革。適任者が委員になること。また、事務局のサポートを改善すること。③アウトプット・チャレンジ(output challenges):論点の絞られた、効果的な所見を出すこと。④インパクト・チャレンジ(impact challenges):権利保持者に対して違いをもたらせるか。つまり委員会の所見の法的なステイタス、認知度を高める必要がある。⑤環境上のチャレンジ(environment challenges):委員会が互いに交流する。例えば、自由権規約委員会の作業と、UPR (Universal Periodic Review[普遍的・定期的レビュー])、地域の人権裁判所、その他の委員会の作業との整合性を図る。

各委員会の改革作業は始まっているが、まだ成果は見られない。中でも大型の改革努力はうまくいっていない。例えば、2005年に前人権高等弁務官が一つの委員会に統合することを提案したが、強い反対を受けすぐに撤回した。

しかし改革の必要性は高まっている。その後、歓迎できる展開もある。2009年9月にピレー人権高等弁務官が国連総会で緊急の改革の必要性を訴え、新たに議論が始まった。同年11月には「ダブリン声明」が出され、対応を要する問題が特定された。「ダブリン」以降、数多くの会合が行われ、改革提案が作られつつある。

私は、ナイーブな理想主義者とも、悲観論者とも意見を共にしない。国連の人権条約、制度・手続きには、人権の保護に違いをもたらすポテンシャルがある。私たちは、それを実現する責務を担っている。

3.レスポンス
①メルセデス・モラレス (国連人権高等弁務官事務所)
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人権高等弁務官事務所は、人権条約をサポートする義務がある。ここでは'The committee'と呼ばれる自由権規約委員会について話す。自由権規約委員会への個人通報は最も多く、選択議定書の締約国も最も多い。

まず誰が通報できるか。人権条約のいずれかの個人通報制度を受け入れた国家の法域で起こった事象について、個人、個人のグループが通報できる。個人は、NGOあるいは弁護士会など市民社会の関係者を通して委員会に通報することができる。この方法が、個人通報制度へのアクセスを助けている。

通報者、書面を出す人という視点でみると、高等弁務官事務所は6,000通の手紙を毎年受け取り、そのうち120から140通を委員会が取り扱う。個人通報の原則は、選択議定書の中に書かれている。高等弁務官事務所では、9人から10人の専門家が、国連の公用語を用いて、年に3か月間程度開催される委員会の仕事をサポートする。

委員会の所見が出るまで秘密が保たれる。1996年以来統計を取り、文書はデータベース化されている。これまで日本から134件の通報の書面を受け取った。しかし、日本は締約国でないためそれら書面は審査されていない。

通報の数自体は大きく増加しているが、それは個人通報制度を受け入れた国の数が増えたからである。委員会が取り扱う通報件数は増えていない。あまりにも多くの通報が来て取り扱えないという日本の当局の心配は、制度を導入しない理由にならない。

②大谷美紀子弁護士 (日本弁護士連合会 国際人権問題委員会副委員長)

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101104EU_msOtani.jpg弁護士が個人通報制度を通じて、個人の人権の保障にどう貢献できるか。3点ある。

第一に、個人通報制度に関する正しい理解を促進する。個人通報制度は上訴制度でなく、委員会の見解には法的な拘束力がない。モラル、オーソリティティブな力である。高い期待だけが先走ると、落胆が起こりかねない。この制度を十分に知らせ、効果的な使い方を広める。

第二に、説得的な議論を通じて、よい見解を引き出す。弁護士が先例を研究し、条約の規定をクリエイティブに使う。そして、世界的な人権の保障にインパクトを与える仕事をする。

第三に、弁護士が個人通報制度に果たす役割、可能性は大きい。まず、具体的な通報の代理人になれる。他方で、政府側の答弁をする法律家・専門家としても活躍しうる。そして、モラレス氏のように高等弁務官事務所など国連条約機関で制度を支える専門員になれる。

4.質疑応答

萬歳准教授の司会進行のもと、質疑応答が進められた。まず司法の独立性の議論について、次に国際結婚の子の連れ去りの問題について、登壇者にコメントが求められた。

オフラハティ氏は、国際的なモニタリング機関は上訴裁判所ではなく、政府が条約の義務を順守しているか、いないかと判断するだけであり、通報制度の採択により司法の独立性を害されるという議論は的外れだと述べた。大谷氏も、政府レベルではすでにその議論は終わった、という理解を示した。

子の連れ去りについて、オフラハティ氏は深刻な問題と認めた上で、委員会は警察ではないと述べ、人権を守り促進するのは国家であり、勧告を受け国家が成果を出すことが重要だと述べた。大谷氏は、欧州人権裁判所には豊富な判例があり、今後人権委員会でクリエイティブに活用することも可能だと述べ、子どもの権利条約の個人通報制度の起草が始まっていることにも言及した。

文責: EUIJ早稲田 加藤恵美

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プログラム

【第一部  13:00-14:30】
  「国連は個人の人権をどう守れるか」"How U.N. treaties can foster an individual's human rights"
 司会:萬歳 寛之 准教授 (早稲田大学法学学術院)

    •  開会の辞
- 白井 克彦 (早稲田大学 総長)
- ステファン・フーバー (駐日欧州連合代表部 臨時代理大使) 
    •  山花郁夫外務大臣政務官によるスピーチ
    •  
    • 基調講演:マイケル・オフラハティ(国連自由権規約委員会委員)
"The strengths and weaknesses of the UN Human Rights Treaties system"
 「国連人権条約システムの可能性と限界」

    •  応答1: メルセデス・モラレス (国連人権高等弁務官事務所)
    •  応答2: 大谷美紀子弁護士 (日弁連 国際人権問題委員会副委員長)
    •  質疑応答
 
 【15分休憩】
 
 【第二部 14:45-16:30】
 「国連条約の実践:日本における個人通報制度」"The U.N. Treaties in practice: the Individual Complaint mechanism in Japan"
司会:岩澤 雄司 教授(東京大学、国連自由権規約委員会委員長)
   日本弁護士連合会 : 個人通報制度パンフレットはこちら

  • 司会による問題提起
  • ポール・グリーン (元ICJメンバー)
    "What rights does a State party's accession open to citizens and how can citizens use them?"
  • ゲルハルト・タリンガー(オーストリア) "How a state prepares to deal with individual cases"
  • ルーランド・ベッカー/オルショヤ・マカール"Proceedings before the Committee"
  • ペトル・コヌプカ(チェコ) "The challenge of implementing Committee opinions"
 
『日本社会の視点―条約批准の影響』
  • 武村二三夫弁護士 (日弁連 自由権規約個人通報制度等実現委員会副委員長)
  • 江島 晶子教授 (明治大学法科大学院)
  • 欧州各国政府高官、日本の弁護士・学者によるパネルディスカッション
  • モデレーターによる総括
  • 質疑応答

 閉会の辞 : 福田 耕治教授 EUIJ早稲田代表