| 講師 | ルードルフ・ティーネル氏 (オーストリア行政最高裁判所副所長) |
|---|---|
| 司会 | 須網隆夫教授 (EUIJ早稲田運営委員、早稲田大学法務研究科) |
| 日付 | 2009年5月28日(金) |
| 時間 | 10時40分から12時10分 |
| 場所 | 早稲田大学 26号館多目的講義室 |
| 言語 | 英語(英-日本語同時通訳) |
| 備考 |
モデレーターの須網教授より、EU独自の法秩序なくして今日のような高いレベルでのEU統合は存在し得ないと、その法的意義が強調され本講演への期待が示された。福田耕治EUIJ代表(政治経済学術院教授)の開会挨拶では、将来日本のリーダーとなる早稲田大学の学生がこのような素晴らしい講演の機会に恵まれることへの光栄が示されるとともに、本講演は政治学者にとってもまた興味深いあるものであることが指摘された。

ティーネル教授の講演は、European Unionの特徴を語ることから始められた。EUは三本の列柱構造からなるが、特別な司法制度を有するのは第一の柱の部分のみであること。共同体法の特徴として、直接効力(Direct Validity)、直接効果(Direct Effect)、超国家性(Supremacy)があるが、この特徴は伝統的国際法のそれとは異なること。共同体の一次法には設立条約と、EC裁判所により発展を遂げてきた法の一般原則などを含む不文法とがあり、二次法には、規則、指令、決定やそのほかの一方的行為、国際条約があること。EUは加盟国内に執行機関を持たないため、EC法の執行は加盟国に委ねられること。
EC条約10条は、共同体法に直接効果がない場合でも、EU市民が加盟国裁判所でそのような法を援用できるようにすることを加盟国に義務づけている。加盟国裁判所に一定の自律性が認められるとはいえ、EC法の実行を歪めるような加盟国法の解釈適用は認められていない。
EC裁判所の解釈適用権限の対象には、220条が規定する条約のほか不文法や二次規則があるが、あくまでも共同体法に限定されており、加盟国法を適用する権限は持たない。そして、法が有効に機能するように解釈することが求められる中で、EC裁判所は明文規定にない多くの原則を判例法により補ってきた。直接効果、共同体法の優越性、共同体法の一部としての基本権、加盟国又は加盟国裁判所による共同体法の履行責任、などがそれである。
訴訟形態の一つである先決裁定訴訟手続きは本講演のメインテーマである。同手続きは加盟国裁判所に対して、共同体法の解釈が問題になったときにEC裁判所にその問題を付託することを認めるものであり、両者の協力関係により、共同体法の統一的な解釈が可能となっている。加盟国裁判所は、解釈問題が生じるのが国内最終審であればEC裁判所への付託の義務が生じるが、同一の問題が既に扱われている場合や法的論点が同じである場合には同義務は生じない。ところが、付託しないことが共同体法違反として、国家の責任が問われることがある。ときに、国内の憲法裁判所がほかの最高裁の責任を判断するような事態を招き、極めてセンシティブな問題といえる。EC裁判所が制限しないかぎり、判決には遡及効が生じる。
最後に統計上の数字についてであるが、1995年以来、オーストリアは333件の先決裁定を付託しており、これは多い方である。2008年の数字を見ると、EC裁判所における訴訟全体の半数が先決裁定で占められており、同手続きの重要性が伺える。先決裁定に要する時間は平均16.8ヶ月であるが、加盟国裁判所で終結するまでを考慮すると、手続き全体はかなり長いものであるといえる。
以上の講演の後、質疑の時間に移ると、「公務員審判所から第一審裁判所へ
上訴された事案が、さらにEC裁判所まで持っていかれることは可能か」「先決裁定の効果について、規範力を有する国内判決にどのように影響するのか、国内判決がEC法違反である場合、再審や取消しの義務は生じるのか」「国内裁判所とEC裁判所が解釈を一致させるための公式・非公式の制度は存在するか」「目的論的解釈にはおよそ役に立たないウィーン条約法条約31条、32条が国際法解釈の原則として存在する中で、EC裁判所はいかにこのルールとの整合性をはかってきたのか」「オーストリアはなぜ積極的に付託を行ってきているのか、貴国の文化や教育と関連があるのか」などの、興味深い質問が次々に提起された。
本講演は、EU法のトピックの中でも、比較的専門性の高いものであったと思われる。聴衆には一線で活躍する研究者も多く見られ、質疑の時間も大変に充実したものであった。




